【洗浄とは?基礎編③】水系洗浄剤の種類と主な用途

前回までのおさらい

 前回は産業用洗浄剤には「水系洗浄剤」「非水系洗浄剤」「準水系洗浄剤」の3種類あることを紹介いたしました。それぞれには得意な汚れと注意点がありますが、本記事では水系洗浄剤」について詳しく紹介していきます。

 

目次

 

水系洗浄剤とは

 水系洗浄剤の主な成分は界面活性剤です。界面活性剤の分子構造を図1に示します。界面活性剤は分子内に親水基と親油基を持っています。親水基は水に馴染みやすく、親油基は油に馴染みやすい特徴を持っています。この2つの特徴により界面活性剤は汚れを落とすことができます。

 界面活性剤が汚れを落とす仕組みを図2に示します。ここで「汚れ」は油や有機系異物を指します。まず汚れと界面活性剤が出会った際に、まず多くの界面活性剤分子が「汚れ」を包み込みます。この時、界面活性剤は親油基と「汚れ」が結合して、親水基を外側にして包み込みます。親水基を外側にして包み込むことで、この「汚れ」を水に溶解させることができます。この作用を使って汚れを浮かし取り洗浄することができます。

 さらに水系洗浄剤は、洗浄の効果を高める&特別な異物を洗浄するために①アルカリ洗浄剤、②中性洗浄剤、③酸性洗浄剤の中から洗浄剤を使い分ける必要があります。

 

 

図1

image of surfactant

 

図2

image of surfactant's structure

アルカリ性洗浄液

アルカリ洗浄剤の主成分

 アルカリ洗浄剤はアルカリ性を示す水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを主成分とし、pH=10〜14程度程度の洗浄剤を指します。

 

アルカリ洗浄剤の得意な汚れ

 アルカリ洗浄剤は動物性および植物性油脂汚れを落とすことが得意です。油脂汚れは脂肪酸とよばれる油性物質が含まれます。この脂肪酸はアルカリと反応することで水溶性のセッケンへ変化します。この反応により汚れは乳化や水溶化が進行し、汚れが落ちるという仕組みです。

 このような脂肪酸による汚れに対しては界面活性剤の作用よりもアルカリの作用が大きく、脂肪酸の含有量が多い汚れに対してはアルカリ液の方が洗浄性が高くなるという報告もあります。

 

注意点

アルカリ洗浄剤は両性金属の洗浄には使用できません。両性金属とはアルミニウム、亜鉛、スズ、鉛の4つです。これらはアルカリと反応し、錯イオンを形成してしまうため洗浄には適していません。これらの両性金属を主成分とするものの洗浄にはアルカリ洗浄剤は使用しないようにしましょう。

酸性洗浄液

酸性洗浄剤の主成分

 酸性洗浄剤は酸性を示す塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸と、クエン酸や酢酸という有機酸を含み、pH=0〜6程度の洗浄液を指します。

 

酸性洗浄剤の得意な汚れ

 酸性洗浄剤は錆や金属酸化物を洗浄することが得意です。原理は酸作用により金属表面を剥がし、錆汚れを浮かせて洗浄しています。

 

注意点

酸性洗浄剤は洗浄物の腐食に注意が必要です。

以上のメカニズムから「錆」自体は溶解しているのではなく、

「金属表面」を溶かしているため洗浄物自体は多少エッチングされています。

このため製造工程の中で生産している洗浄物に対して、酸性洗浄剤のエッチング作用を加味した工程設計が必要になります。

 

中性洗浄液

中性洗浄剤の主成分

 中性洗浄剤はPH=6〜8程度の中性を示す洗浄剤。使用目的はアルカリに弱い洗浄物に対する洗浄に用います。

 

中性洗浄剤の得意な汚れ

 中性洗浄剤の得意な汚れは油汚れです。ただしアルカリ洗浄剤や酸洗浄剤のような化学反応は伴わず、洗浄能力は主に界面活性剤に起因するため洗浄力はあまり高くありません。ただし、洗浄物に対する腐食のリスクは小さく、また取り扱いがしやすいことが特徴です。

 

アルカリ洗浄液との使い分けの方法

 ニッケルやステンレスなどはアルカリ領域でふどうたいひまくをつくるため強い耐アルカリ性が強いため、強い洗浄力をもつアルカリ洗浄剤を用いることができます。

一方で、アルミニウムや亜鉛などはアルカリに対して溶解してしまうためアルカリ洗浄剤は適さないため、中性洗浄剤を選択することになります。 

その他注意点

廃棄処理方法

水系洗浄剤の廃棄方法には注意が必要です。液性が酸性やアルカリ性を示すためそのまま廃液として流すことはできません。そのため特別な処理を行う必要があります。廃棄方法は大きく分けて、焼却、中和処理の2つです。

焼却は廃アルカリ洗浄剤を霧状に噴霧したものを焼却炉にて焼却します。中和処理はアルカリ性洗浄剤に対しては酸性溶液、酸性洗浄剤に対してはアルカリ性溶液を混合し、中性に近づけてから廃棄します。この際に有毒ガスが発生する可能性もあるため、作業には注意が必要です。

 

洗浄機に適した洗浄剤の選定

 使用する洗浄機に適した洗浄剤を使用する必要があります。洗浄機には大きく分類し、シャワータイプと浸漬タイプの2種類が存在します。ここでシャワータイプの洗浄機を使用する際は、消泡剤が含まれる洗浄剤を使用する必要があります。前述の通り、水系洗浄剤の主成分が界面活性剤です。この界面活性剤の作用によりシャワーなどの噴流が強い洗浄機では槽内の洗浄剤が大きく泡立ってしまいます。

この対策として、シャワー式の洗浄機には消泡剤が含まれた洗浄剤を使用する必要があります。このように液性以外にも洗浄機の方式に適した設計がされている洗浄液を選定する必要があるので注意が必要です。

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