2025年問題…熟練技術者の退職と人材不足
現在、日本の人口は2010年を境に減少を続け、2025年には約800万人いる団塊の世代が後期高齢者(75歳)となり、超高齢化社会を迎えます。『2021年版 ものづくり白書』によると、製造業における高齢就業者数は、2002 年には 58 万人でした。
しかし、リーマン・ショック後など、一時的に減少した時期以外は、増加傾向で推移し、2020 年には 92 万人と高止まりしています。そう遠くない時期に起こる、熟練技術者の定年退職を目前にし、製造業界は大きな転換期に差し掛かっています。
ー熟練技術者の「属人化」問題
ー熟練技術者の「経験や勘」を伝える難しさ
ー若手人材の獲得が困難
・「暗黙知」をVMSでデジタル化!
ー「匠の技術(暗黙知)をVMSの力でデジタル化
ー「経験や勘」をOJTに活用
ーVMSを使って「技術継承」や「教育体制」を整え人材育成
・まとめ
熟練技術者の「技術継承」の現状と「世代交代」の課題
熟練技術者の「技術継承」をするにあたって、目に見える「形式知」や、言語化するのが難しい「暗黙知」があります。「形式知」は作業の手順やノウハウといった情報であり、マニュアル化して体系的に伝えることが可能です。
一方、「暗黙知」は、言葉だけでは伝えられない要素を多く含み、伝達が困難です。「形式知」と「暗黙知」を上手く活用し、「組織全体の生産性の向上」を高める、ナレッジマネジメントが重要とされていますが、活かされていないのが現状です。また、高度な「技術継承」をする難しさと、「技術継承」を推し進める立場にあるべき「中堅技術者」が不足しているという事情もあります。
作業標準や、マニュアル・安全手順書といった表面的な内容だけでは、「暗黙知」の部分まで伝えられず、「技術継承」仕組みが整備されていないケースが多々あります。
熟練技術者の「属人化」問題
熟練技術者の「匠の技」、業務上の「ある作業」が「特定の人」にしかできない、いわゆる「属人化」の問題に悩まされている企業は少なくありません。製造業において、熟練技術者が持つ技能は、他社との差別化を生む重要なノウハウであり、競争力の源泉です。このノウハウを絶やすことなく次世代に引き継いでいくことは、事業継続の観点からも重要な課題と言えます。一方で、熟練の技術者が長年積み上げた「経験や勘」によって、業務が進められている場面が多々あり、技術者のノウハウは体系化されていない現状があります。
熟練技術者の「経験や勘」を伝える難しさ
「経験や勘」は、マニュアル化や文章化が難しく、「OJT(On-the-Job Training、実務を任せながら行う職業教育のこと)」の「言って聞かせる」「やって見せる」「やらせてみる」といった手法や、文字の伝達だけでは限界があります。伝える難しさも相俟って、新たな技術者へ引き継ぐことに、困難を極めています。熟練技術者が引退してしまえば、また一から長年かけて、「経験と勘」を培っていく必要があります。
若手人材の獲得が困難
少子高齢化に拍車がかかる今、日本の労働力人口は減少傾向にあります。特に製造業においては、若者の就業者不足が顕著であり、将来を担う人材確保が進んでいないという課題も深刻化しています。また、熟練技術者とされる高齢者層の退職後に向けて、在職中の若年就業者への「技術継承」も急務といえます。
今後、製造業は「技術継承」や「人材不足」という困難に晒されてしまうことが懸念されています。この「技術継承」の問題はいわゆる「2007年問題」としてクローズアップされた頃から、日本の製造業の抱える課題として意識され続けてきました。「2025年問題」については少子高齢化による「人材不足」も浮上し、ますます深刻化しています。また、もう一つの憂慮すべき問題は、「人材不足」がもたらす、生産性と製品のクオリティーの低下問題です。
熟練者のみが把握する「暗黙知」をデジタル数値化に
ノウハウを「整理・体系化」して伝えていくためには、多くの時間と投資が必要です。しかし、現状では、熟練技術者のノウハウ自体が定量化できず、価値として推し量ることができないために、「技術継承」が先送りされています。製造業の現場では、日々の業務に追われ「技術継承」をついつい後回しにしてしまいます。そこで日常の業務に「技術継承」を組み込む工夫が必要になってきます。
熟練技術者の「匠の技術(暗黙知)」をVMSでデジタル数値化する
複数のネットワークカメラとVMSを設置し、熟練技術者の作業を動画撮影します。道具を使う時の動作や、技術者の手や腕の動き、目の動きなどの動作を、VMSに記録させます。VMSで熟練技術者の動きを映像化・デジタル化することにより、熟練技術者と非熟練技術者の相違点の比較が容易となります。熟練技術者の勘やコツなどの「匠の技術(暗黙知)」を可視化し、迅速な「技術継承」に繋げられるほか、マニュアルへの展開やノウハウの蓄積などにも活用できます。撮影は、日常の業務を行っている熟練技術者を動画撮影するため、「技術継承」に特別な時間を割く必要がなく、業務を圧迫することがありません。
VMSを使って熟練技術者の「経験や勘」をOJTに活用
OJTにも、VMSを使った「映像」の活用に期待が集まりつつあります。映像データは、「音・動き・時間軸の短縮」というさまざまな要素が含まれており、文字や静止画よりも遥かに多くの情報を、瞬時に閲覧者に届けることができます。熟練技術者の動きを一体的に捉え、データ化し、蓄積したデータを基にOJTマニュアルを作成します。職人の技術をデジタル化できる、VMSの力があってこそ実現できる訓練です。複雑な内容でも短時間に分かりやすく情報伝達できることから、閲覧者が受け取る情報やイメージの均質化を図ることができ、動画は非常に有効であることが分かります。
VMSを使って「技術継承」や「教育体制」を整え人材育成
現状の少子高齢化にともなう、労働力人口の減少を鑑みると、新たな人材を採用するよりも、現場で勤務している人材の教育を充実させ、離職を防ぐことが現実的なアプローチといえます。そういった観点で見ると、製造業の現場において在職中の若年就業者への「技術継承」や「教育体制」など、改善すべき点が見えてきます。
現場で働く技術者を育成していくには、生産工程にVMSやAIを導入し、熟練技術者が持つ「匠の技術(暗黙知)」を“可視化”することが重要です。熟練技術者の経験に頼っていた業務を標準化し、現場作業者のスキルアップや技能習得に役立てることができます。